稚アユはホンモロコと並んで、琵琶湖に春を告げる大事な魚だ。もっとも大事なのは氷魚。ひうおとか、ひお、ひいおと呼ばれているアユのこどもで、まだ色のついていない透明なもの。これが少し大きくなると稚アユになる。かつての日本では多くの地域でこの稚アユを食べていたと思うのだけれど、今となっては多くの河川で捕ることが禁じられているから、合法的に食べられるケースは少ないということになる。海では釣れる場所がいくらかある。
さてこの稚アユの新しいものを恵んでいただく機会があったので、京都風のあっさりとした炊き方にしてみる。鍋に番茶を少し煮出して、白醤油、水飴、ざらめを加えて煮汁を作る。酒を加えて沸騰したら、軽く水洗いした稚アユをばらばらと少しずつ、塊にならないよう、そして煮汁の温度が下がりすぎないように入れていく。入れきったら沸騰させてすぐに火をゆるやかにし、実山椒と細く刻んだしょうがを加えて30分ほど煮る。煮汁が6割くらいに煮詰まるので、そのままざるにあけて冷ます。要はくぎ煮と同じ方法だと考えてもらったらいい。煮汁が煮詰まるまで炊いてしまうと、稚アユの風味が死んでしまう。琵琶湖の東岸で食べる稚アユの甘露煮は、もっと濃いけどね。あれはもったいないと思う。残った煮汁は煮詰めて、寿司のツメに使ったり、または他の魚や野菜を煮るときに使うといい。
これもイカナゴと同じなのだけれど、鮮度のいいものでないと腹が割れたり、頭が取れてしまう。また、煮あげる途中で鍋をゆすったり、箸でかき回したりするのは厳禁だ。余計なことをしないで、がまんしてじっくりと煮ることを楽しみたい。たくさん作ったつもりが、あっという間に食べきってしまったのだった。