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10月, 2020の投稿を表示しています

えびまき

えびまき、かにまき、というのがある。広渡川は宮崎の中でも南部に位置する大水系で、頻繁に起こる豪雨によって乱高下を繰り返す暴れ者だ。河床がしょっちゅうひっくり返されるので、訪れる度にコンディションが異なる。そういう稀有な性質をもった川である。河床の呼吸を感じられる川だ。 この流域ではかにまきこと、モクズガニの潰し汁が愛好されている。これは潰したカニの肉に塩、味噌を混ぜ、この汁を炊いた汁であって、同様の料理は宮崎県内のほか、大分県や愛媛県、高知県にも見られる。長崎の島々にはこの潰し汁、あるいはサワガニを用いたものにぬるま湯を注いで食べる文化がかつて存在したが、これはジストマの悲劇的大流行を招いていた。現在は当然、食べられてはいない。淡水性のカニはなにがなんでもしっかりと加熱すべきである。 さて、広渡川のひとびとにとってのかにまきはただならぬものであるようで、流域にはたくさんのカニ捕り師がいるし、地域のローカルスーパーでは、かにまきペーストの冷凍品が広告の品として並んでいる。かにまき好きが高じて、鉄工所にわざわざカニを潰す道具を作らせた者もある。これほどの愛着はほかの土地では見聞きしたことがない。ところで、このかにまき、ないしはかにまき汁は広く広渡川、またその支流の酒谷川で食べられているものだけれど、地区によってはテナガエビ類を使ったえびまきのほうが好まれる。これを今でも食べているのは一部の集落に限られると想像している。河原で出会ったエビ捕りのおじいさんが、たくさんあるからえびまきにするといい、と言って、エビをくださったことがある。そのときは時間の都合上えびまきを作ることはできなかったが、作り方については一通りレクチャーを受けた。広渡川ではヒラテテナガエビとミナミテナガエビの2種が捕れ、区別せず料理に使われている。前者の方が殻が硬いが、味に大差はない。 えびまきには大きいエビを使った方が味が良いという。エビ150グラムを擂り鉢で潰していく。あらかた潰し終えたら、重量の3%の食塩を加えて、さらに細かく潰していく。見た目に塊のままの頭や肉がなくなったら、味噌40グラムを加えて、擦る。味噌は本来麦味噌であるが、今の当地では米味噌、また麦と米との合わせ味噌も使われている。ある程度甘みのある好みの味噌を使ったらいい。擂り潰したペーストをざる、普通の金ざるに入れ、同径のボールに受けて

アンボン煮

 私が初めて経験した東南アジア滞在がインドネシア、アンボン島だったことは一生忘れることがないだろう。当時、アンボン島はキリスト教徒とイスラム教徒による複数回に及ぶ激しい内紛によって疲弊しており、もともと前者の影響の強かったこの島では毎日アザーンが大音量で流れていた。 アンボン島では政情不安も作用してインフラが万全ではなく、市街の中心部や空港、自己電源をもつ一部の施設を除いて計画停電という名の非計画停電体制が敷かれており、1日のうちに電気が通るのは1から数時間ほど。当然冷蔵庫は使えないし、夜はろうそくだ。水道から水もほとんどでないため、宿舎の水溜の蛇口を全開にして、日中出掛けて戻ってくると20から30リットルほどの茶色い水が溜まる。これを洗濯やトイレの水洗に使用した。 さて、そんな生活の中での楽しみと言えば当然食事となる。朝、昼、晩と、パンとかゆを除けばすべてが激辛な現地での料理には閉口するしかなかったが、味わいは実にさまざまであった。そんな中で定番的に出されたのがアンボン煮である。アンボン煮という名前が現地にあるわけではなく、現地名はイカン・ゴレン(魚の揚げ/炒め物)でしかない。しかしこのイカン・ゴレンにも多様性があるのであって、我々が食べていたものはアンボン煮と呼ぶに相応しいものであった。なおこの呼び名はオランダ煮を意識したものである。アンボン島はかつて、オランダに植民支配されていた。 さて、このアンボン煮を久しぶりに作る機会があったので、記録として書き残しておきたい。アンボン煮に適した魚はまずは青魚。ムロアジ類やメアジ、あるいはマグロやカツオも向いているが、脂気の少ないものがよい。そのほか、キツネウオなど、要するにたくさん採れる安い魚が使われる。相性としてはメアジがもっともよい。なお、現地では氷で冷やさずに鮮度が劣化した魚が使われており、これはまさに現地流の味となるわけだが、普通は鮮度のある程度良いものを使った方がよい。 鱗を粗方落としたら頭を落として、魚を幅3から4センチ程度に筒切りする。内臓は傷んでいたら取り去る。水気をよく拭き取ったら浸るくらいの油に放り込んで、160度くらいで15分ほどかけて素揚げする。触りすぎるとボロボロになるので、最低限裏表をひっくり返す。これを油から取り上げたら、人肌程度になるまで冷ます。冷めたら再び油の中に入れて、また10分ほど揚