私は味噌が好きだ。研究の道に進まなかったら、味噌蔵に就職しようと本気で思っていた。それが叶わなかった今の人生、いいのか悪いのか。
私の育った家庭は愛知県の西部にあって、両親ともにそうであったので当然実家の味噌は豆味噌、いわゆる赤味噌だ。今どき汎用しているのが七宝味噌赤だし。だし入り味噌は邪道でも、使うのが楽なのがいい。尾張の味噌なので、八丁味噌のように角がない。そのぶんうまみが薄いとも言えるけれど、普段使いにはこれで十分だ。
名古屋地域には味噌汁について、豆味噌以外の味噌を一切認めないという過激派もある。我が家はというと、この七宝味噌を基本型として、ときたま米味噌や合わせ味噌になることもあった。現在の私はというと、気分や具に合わせて逐一変えている。今でも豆味噌でないと許せないのは、シジミやアサリといった二枚貝や、里芋の味噌汁。特に貝の汁は豆味噌が一番活きる。ふなの汁を作るときには米味噌がいい。米味噌のやさしさはふなの繊細な脂に合う。少々甘いめの、大分の米すり味噌はいい。この味噌はふなのてっぱいにも向いている。対してくせの強いコイの汁なら豆味噌のほうがいいような気もする。どじょう汁についてはやっぱり米味噌だ。それも塩気があって個性のある越後味噌と合う。冷や汁をするなら麦味噌一択だろう。しかし同じ九州の田舎風味噌であっても、宮崎は日南のものと鹿児島加治木のものとでは味わいの性格が異なる。
味噌には大きな個性があるから、具材との相性を考えて、試行してみることも楽しみのひとつ。もちろん、各地の郷土料理試作のうえでも、いろいろな味噌を持っておくことは重要になる。私は写真のもののほか、西京味噌をストックしていることが多い。八丁味噌は味噌煮込みうどんにだけ使っている。