我が家のベランダではタイバジルを育てている。私が育てているのはタイバジルやコブミカン(バイマックルー)といった、なかなか生のものが手に入らない香草類。タイバジルはフォーの重要な薬味であるし、タイ風の海鮮サラダには欠かすことのできない存在だ。そのタイバジルも5月末に種まきしたものが少しずつ伸びてきて、いよいよ間引きが必要なくらいになった。冷蔵庫の中身と相談して、ガパオライスを作ることにする。タイの炒め物はちょっと甘いものが多い。にんにくと生の唐辛子をみじん切りに、紫玉ねぎ半分をみじん切りに、パプリカ半分は少し粗めのみじん切りにしておく。にんにくと唐辛子を油で炒めて、辛いにおいが出てきたら豚挽き肉200gを加えて炒める。少し水を入れてやるとパラパラになりやすい。挽き肉におおかた火が通ったら紫玉ねぎとパプリカを同時に加えて、すぐに黒糖を小さじ1杯加える。焦げ付かないように混ぜるように炒めて、今度はナンプラーを大さじ1杯と、オイスターソースを少々加える。少し味見して、塩を少々加えて調味する。この間に野菜は十分火が通るので(若干しゃきしゃき感が残っている方がいい)、火を止めたらタイバジルの葉を散らしてさっくりと混ぜる。ここにパクチーも加えていいし、パクチーはあとから生の状態で乗せるだけでもいい。本当は調味料にカピ(エビなどを発酵させた調味料)があるといい。カピを使うなら、ナンプラーとオイスターソースを減らす必要があるけれど、たぶんふつうの家庭にはないし、簡単には買えない。それと、カピを使うときには油でよく炒めて使うべきで、この際にう○このようなにおいが立ちこめるので、家庭向きではないだろう。話が逸れたけれど、器にご飯と、目玉焼きと一緒に盛って完成。日本で食べるガパオライスには必ずといっていいほど目玉焼きが乗っているけれど、もちろん目玉焼き抜きでもいい。
カワムツという魚がいる。海のムツではなく、川のムツ。ムツというのは古語である。海のムツといえば今や高級魚の末席にあるような魚だけれど、カワムツはどうだろう。昔持っていた釣魚図鑑には不味と書いてあったし、そのほかの文献を読んでみてもオイカワより味は劣る、とか、とにかく比較的評判が悪いことが多い。私は幼少の頃からオイカワのおいしさを知っていたものの、カワムツについてはこうした事情からかなり最近まで食べる機会を逸していた。そもそも、カワムツはオイカワに比べると川の上流側、淵のような深いところにいることが多くて、私の主な活動範囲である平野部の浅い水路にはなかなか出てこない。少なくとも愛知県ではそうだった。 西日本で一般に川の小魚と言えばオイカワになると思うのだけれど、山手に進むとカワムツに変わる。たしかに、ここ九州でもカワムツはオイカワよりもより上流まで分布している。ヤマソバヤという呼び名は山にいるはやという意味をもつ。この山のハヤがひとびとにとっての重要なタンパク源であったことは疑う余地をもたない。その割に文献資料に欠けるので、やっぱり自分の足で昔の記憶を尋ねて歩く必要があるし、単にハヤとされている資料ではそれがカワムツであったのかオイカワか、またウグイやその他かということが分からない(文脈で分かることもある)。 さてそのカワムツを食べたくて、水辺に出掛けては黒々と群れをなしているところに突っ込んで、大小を取り合わせて持ち帰る。この時期は暑さですぐに肉が痛んでしまうから、よく冷やして持ち帰る。川のハヤは焼いたり揚げたりして食べる分には鱗をとる必要がない。大きなものは腹の中央あたりに包丁の切っ先で小さな切れ目を作り、そこから絞るようにして内蔵を押し出す。口からまっすぐではなく、少し尾がせり上がるようにして串を打つ。すなわち、串の先端は内臓の空洞を通って、臀びれの末端あたりから出す。平たい串を使えばこれでも魚が回ることはない。普通の塩焼きに比べたらかなり多い量の塩を振って、"塩だまり"ができるようなかたちで、手で塗りたくるようにして全身に回す。これをうまく焼き上げたら塩焼きとなる。家庭用の魚焼きグリルでも問題なくできる。はじめは強火で表面の水分を飛ばし、あとは弱火にして25分ほどかけて焼き上げる。焦がしすぎてはいけない。中まで焼けているかどうかという