日本人は初物をありがたがる。食べ物を通して季節を感じる、その中にある初物という存在はとてもいとおしいし、改めて繊細で純粋な、食べ物に感謝するという気持ちのうえに成り立っているものだと思う。特に魚の場合、新仔、シンコという概念がある。まだ出始めで生まれたての、あるいは、育ち盛りのまだ幼いものを指して、旬のものとして楽しむ。その最たるものがシンコ、コノシロの子供である。江戸前寿司にとって、季節感を最大限に印象付けるのはコノシロの成長だ。コノシロは地域によって多少の差はあるものの、春、だいたい4から5月頃に産卵する。この子供が6月の終わり頃になると1円玉を超えるサイズになってくる。これをシンコと呼んで、関東江戸前の寿司屋では競って扱うようになる。もともと、江戸前の海(という表現もおかしいけれど)で獲っていたのが、東京湾ではほとんど獲れなくなってきている。現在も内房で少し漁があるようだが、主たる産地は伊勢湾三河湾と、有明海だ。シンコはキロあたり何万もするもので、地元には一切、出回らない。身が柔らかく、繊細なシンコは氷水に浸かって、急いで東京に送られる。世の中のシンコはほぼすべて築地、今は豊洲に集まるといっていいだろう。そんな魚は日本中を探してもシンコくらいしかないのではなかろうか。シンコを使った握り寿司は愛知県や福岡、佐賀県など、産地の県でも食べられるが、扱う店舗がごく限られるうえに、これらは東京で競り落とされたものが産地に逆輸入されているものだ。それなら、東京、あるいは関東で食べた方がいいということになる。ほぼ、関東の郷土限定食材だと言っていい。
7月半ばに神奈川の気のいい寿司屋でいただいたシンコは、3枚付けだった。一巻の寿司に、腹開きにしたシンコがけなげに3枚、握られている。前の週には6枚付けだったという。これが2枚、ないしは1枚半になったら、シンコの季節は終わり。週を経るごとあっという間に成長して、シンコの旬は終わりを迎える。
7月半ばに神奈川の気のいい寿司屋でいただいたシンコは、3枚付けだった。一巻の寿司に、腹開きにしたシンコがけなげに3枚、握られている。前の週には6枚付けだったという。これが2枚、ないしは1枚半になったら、シンコの季節は終わり。週を経るごとあっという間に成長して、シンコの旬は終わりを迎える。