えびまき、かにまき、というのがある。広渡川は宮崎の中でも南部に位置する大水系で、頻繁に起こる豪雨によって乱高下を繰り返す暴れ者だ。河床がしょっちゅうひっくり返されるので、訪れる度にコンディションが異なる。そういう稀有な性質をもった川である。河床の呼吸を感じられる川だ。
この流域ではかにまきこと、モクズガニの潰し汁が愛好されている。これは潰したカニの肉に塩、味噌を混ぜ、この汁を炊いた汁であって、同様の料理は宮崎県内のほか、大分県や愛媛県、高知県にも見られる。長崎の島々にはこの潰し汁、あるいはサワガニを用いたものにぬるま湯を注いで食べる文化がかつて存在したが、これはジストマの悲劇的大流行を招いていた。現在は当然、食べられてはいない。淡水性のカニはなにがなんでもしっかりと加熱すべきである。
さて、広渡川のひとびとにとってのかにまきはただならぬものであるようで、流域にはたくさんのカニ捕り師がいるし、地域のローカルスーパーでは、かにまきペーストの冷凍品が広告の品として並んでいる。かにまき好きが高じて、鉄工所にわざわざカニを潰す道具を作らせた者もある。これほどの愛着はほかの土地では見聞きしたことがない。ところで、このかにまき、ないしはかにまき汁は広く広渡川、またその支流の酒谷川で食べられているものだけれど、地区によってはテナガエビ類を使ったえびまきのほうが好まれる。これを今でも食べているのは一部の集落に限られると想像している。河原で出会ったエビ捕りのおじいさんが、たくさんあるからえびまきにするといい、と言って、エビをくださったことがある。そのときは時間の都合上えびまきを作ることはできなかったが、作り方については一通りレクチャーを受けた。広渡川ではヒラテテナガエビとミナミテナガエビの2種が捕れ、区別せず料理に使われている。前者の方が殻が硬いが、味に大差はない。
えびまきには大きいエビを使った方が味が良いという。エビ150グラムを擂り鉢で潰していく。あらかた潰し終えたら、重量の3%の食塩を加えて、さらに細かく潰していく。見た目に塊のままの頭や肉がなくなったら、味噌40グラムを加えて、擦る。味噌は本来麦味噌であるが、今の当地では米味噌、また麦と米との合わせ味噌も使われている。ある程度甘みのある好みの味噌を使ったらいい。擂り潰したペーストをざる、普通の金ざるに入れ、同径のボールに受けて、水を4カップ、1カップずつに分けて加えては濾していく。はじめはすりこ木で、かさが減ってきたらスプーンでざるに押し付け擦るようにして濾すのがいい。濾し終えた汁というか、ペースト状の汁を鍋に入れて、弱火で炊いていく。鍋底や鍋の縁からペーストが固まりはじめる(エビの肉が"巻いてくる")ので、ときどき(常に混ぜてはいけない!)菜箸や木べらで掻いて混ぜてやる。沸騰してきたら味を見て、塩気が足りなければ塩を足す。
エビを使ったえびまきは、巻いた身がサケのように赤くて、実に美しい。味わいもかにまきと比べて上品だ。このえびまきは個人や地域の寄り合いで食べられるばかりであるため、食べさせてもらうのは困難だ。捕るところから含めて自分で作ってみたい、そんな料理である。