雉を食べたのはもう10年以上も前のことになる。その頃、私は愛知県の鳥撃ちの方と物々交換で主に鴨を送ってもらっていたのだけれど、一度か二度、雉を送ってもらったことがあった。その雉は冷蔵庫でよく寝かせてから、焼いたり飯にしたりして食べたことをぼんやりと覚えている。雉の風味は鴨のそれよりも明らかにすばらしいもので、一方で野鴨のようなうまみのパンチはない。シャイなのだ。それが汁や鍋といっただしをとる料理になると一気に威力が増してくる。これはスッポンに近い感覚かもしれない。私の古い知人に、鳥は好んで食べないが、それでも雉飯だけは何度も食べたいというひとがいた。私も、雉飯というのは雉料理の中でも最高のもののひとつだと思う。
さて、その雉を、猟期最後の雉をtacさんから送っていただいた。届いたもの袋の外から見るにかなりよさそうだ。そこで、がら付きでやっていた1羽を使って雉飯を作る。ほとんど処理してあったので解体らしい解体もないけれど、足(もも)、むね(これは外してあった)、手羽と分けて、くっついているササミも削ぎとる。セセリを切って、体は丸ごと半分に折る。これ全部で900グラムほどもあるので、足とむね半分、それにせせりは別の料理に使う。干し椎茸2個を水1カップで戻しておく。
鍋に湯を沸かして、ここにもも以外の部位を加えて湯霜し、冷水にとる。鍋に水1.5リットル、ここに湯霜したがら、セセリ、手羽、それに山椒の実約20粒と加えて中火にかける。湯がしっかりと沸いたらそこで浮き上がっているアクを一巡掬いとる。これ以降は出てくるアクを一切とらないこと。沸騰後中火を維持して15分、火が通ってきたら中弱火に切り替えて、干し椎茸の戻し汁と、ささがきにした新ごぼう1本を加えて炊いていく。途中、いつでもいいのでかつおだしを足す。私はめんどくさがりなのでふるいの中にかつおつぶしをひとつかみ入れて、汁に浮かべて5分ほどしたら取り出している。30分ほどして煮汁が三分の一くらいになったら、酒100ccを加えてから半分に切ったむね肉と、刻んだ油揚げ2枚を入れ、肉に火が通るまで、だいたい15分ほど炊く。これでだいたいのことが終わる。
米3合はといで水気を切り、30分以上置いておく。実際には雉を炊きはじめた段階でやっておくといい。ここに先の煮汁と、最低限の味付けとして、白醤油大さじ2杯、塩小さじ1杯弱を加えて、汁の量が2.7合分くらいになるよう調整する。足らなければ水を足す。揚げが水気を吸っているから、少なめでいい。煮汁は温かいままで構わない。雉からとれた黄金色のスープはそのまま飲み干したくなるところをぐっとがまんする。
30分の早炊きモードで炊きはじめる。その間に、焚いた雉のがらや手羽から細かく肉や皮をむしりとって、さらにモモ肉は適当な大きさに刻んでおく。大きめに刻むと豪華だし、小さいと食べやすいしご飯によくなじむ。炊きはじめて15分したら炊飯器のふたをあけて、この肉を放り込む。再びふたを閉め、ご飯が炊けたら長さ1センチくらいに刻んだ三つ葉と、細く刻んだゆずの皮を好みの量混ぜ込む。飯を口に含んでみて、塩気が足らなければ少し塩を振る。
雉には鴨などと共通の類いの、野鳥の香りが備わっている。鴨や、あるいは鶏肉のように分かりやすいうまさがないのが雉の特徴なら、何度か咀嚼してから現れてくるあとを引くじんわりとした瑞々しさこそ雉の特徴だろう。雉の香りは、しょうがみたいなもので潰さないで、これを活かしたい。ここにゴボウや山椒がいい仕事をしてくれる。とにかく、雉のよさを損なわないよう、アクを取りすぎないことに注意したい。