私はもちがすきで、雑煮がすきなので、特に寒い時期たびたび雑煮を作って食べている。各地でその土地の雑煮を尋ねることも多いから、尋ね聞いた雑煮を家で再現することもひとつの趣味としている。
さて雑煮作りで最大の問題が材料の入手にある。各地の雑煮に加えられる食材の中には、地域的な流通でしか手に入らないものが多いうえ、時期限定でしか流通しないものもある。例えば愛知県、岐阜県のもち菜は、概ね正月を挟んだ2週間程度しか流通しない。福岡のかつお菜はまだましで、11月の末から2月の頭まである。だし材料はもっと難しくて、年末の2週間しか出回らないようなものもざらだ。
ここ福岡では、金時人参の入手が難しい。瀬戸内圏、あるいは近畿地方のひとびとからしたら信じられないだろうが、福岡で金時人参はほぼ出回ることがない。広島に本拠地をもつゆめマート系列やデパ地下ではいくらか出るが、それも年末年始の一部店舗に限られたことであって、松の内が明ける頃には完全に消滅する。わけあって1月の半ばにスーパーと道の駅をかなり回ったのだけれど、やはり見つけることはできなかった。
今年の雑煮は何にしよう。昨年の終わりに京都の上等な白味噌をいただいていたものだから、京都の雑煮が食べたいと思っていた。ところがどう探しても金時人参が見つからないものだから、といってわざわざ取り寄せて買うようなものでもないし、と考えているうちに寒も明け、節分が過ぎた。そんなさなかにようやくたまたま入荷したと思われる金時人参をスーパーの店頭で見つけ、ついでにいいかんじの里芋(これもいつも手に入るとは限らない)を買い揃えて家に帰ってきた。ちなみに、人参は熊本産だった。
京都の雑煮は味噌に丸もち。むかし京都に嫁いだひとから、旦那の実家の雑煮は人参、崩れかかったお芋、もちしか入っておらず、しかも味噌がくさくってどんな家かと思ったと聞いていた。たしかに、すましの具だくさんな雑煮を食べている文化圏の人間からすれば、味噌で具もシンプルな雑煮は、味噌そのものがうまいと感じなければかなり厳しい気がするし、意外に味噌はひとを選ぶ。私は普段からあらゆる味噌を使っていて、そのようなハードルはない。
水2カップに小さめの昆布を4枚、これを沸かして沸騰直前に取り出す。かつお節はふたつかみとり、沸かした湯の火を止めてかぶせ、しばらくしたら濾す。里芋は皮を剥いて1センチの輪切りにし、角を六角にする。人参は薄く皮を剥いたら厚さ8ミリで輪切りにする。里芋と人参は椀の数だけ切るが、今回は3杯分なので3切れずつ。
小鍋に湯を沸かして、里芋と人参を放り込む。中火で煮ると10分もすればあらかた煮えるので火を切り取り出す。また小鍋に湯を沸かして今度は丸もちを茹でる。だし汁を温め、白味噌65グラムを溶く。ただし味噌はもう少し多くてもかまわない。今回は本田味噌本店の百年味噌。お椀に味噌汁、もち、人参、里芋を乗せてできあがり。
これは味噌が主役の料理で、とにかく濃厚でポタージュのような味噌ともちの相性がばつぐんだ。この味噌をくださったyunyunさんのご実家では、ここにかしわと大根も入るらしい。かしわのうまみ、脂分が加わるとたしかにぜいたくでひといき趣のちがったものになるのだけれど、この雑煮にはなくていい。