春はあらゆる川魚にとって、もっとも重要な季節だ。それはつまり繁殖にあたる時期ということ。本来、川魚に影響を与える多くの公共事業が行われるのは冬から春の始めにかけてで、年度末さえ過ぎれば安寧が訪れる。それが近年では年度が明けてからもだらだらと各地でしゅんせつや護岸工事が続いているのを見かけるようになった。この影響が気がかりである。
さて成り行き的に立ち寄った川の浅瀬にカマツカが集まっていた。普段は日中砂にもぐってばかりのカマツカも、産卵間近のこの時期には砂の上に体を出しているものが多くなる。しかし大量に集合しているのを見かける機会は決して多くはない。投網を何回か放って、大きめのものと中くらいのものを持ち帰ってきた。この時期のメスは腹が膨らんで、なおかつ腹面が紅潮しているので分かりやすい。
理想的には砂を吐かせながら持ち帰り、捕まえて数時間後に氷締めにするのがいい。しかしそれができなくてもおいしく食べられないわけではない。特にこの時期は腹にもあまり食べ物が入っていないからだ。水からあげて冷やして持ち帰ってきたら、少なくとも2日以内、理想は1日のうちに火を通してしまう。コイ科の小魚であるので生のままで長く置くとまずくなる。なにより、大事な腹に臭いが出てくる。子持ちのものなら焼き物か煮付けに限る。いずれにしてもとりあえず焼いておけばよい。カマツカは頭の落ちやすいことが難点であるから、口のところから細い串を通して、首が落ちないようにして焼く。焼き加減は生焼けでよく、だいたい8割がた火を通す。特に卵は火が通りにくいからこの状態だとまず芯は生である。焼けたらまだ熱いうちに串を少し回してそっと抜き取る。腹を上にして皿に並べ、あら熱が取れたら冷蔵庫にしまっておく。これで数日は持つ。煮物にする場合はこれを汁に放り込んで煮る。
焼いて食べるときにはこれを表面が焦げるくらいにしっかりと焼く。カマツカの場合、焼きすぎてまずくなるということはあまり考えなくていい。口のところから臭いを嗅いで、生臭く感じなくなったら腹の中まで焼けていると思ってよい。あとは頭と、肩帯のところ(要するにかまの部分)を取ってから塩を振るなり、醤油や味噌をつけるなり、巣をかけたりして食う。ただ実際には何もつけなくてもうまい。
取り外した頭と肩帯のあたりは吸い物の味出しになる。ただし、頭よっつでせいぜい汁2杯程度の繊細な出汁だ。