6月が近づくと今年もアユの季節が来たのだと思い、各地の川の状況を調べ始める。昨今5月のうちから夏日となるのは全くいただけないけれど、暑くなり、日照りがあると、川石に苔がつく。ただしいい苔(正確には苔ではない)がついて、アユがうまくなるためには、きちんとした降雨があり、川底が磨かれており、そしてダムの影響が少ないという条件が必要だ。こんな些細な条件すら満たすことのできない川が多い。
さていくら6月になってアユ漁が解禁といっても、解禁直後のものを手に入れられる機会はそうそう巡ってこない。自分で採りに行く時間もない。そういう状況に対処する次善の策として、近年は6月に入るか入らないかという頃合いで養殖のアユを買い求めてるようにしている。あるところで育てられているすばらしいアユだ。実際に池を見に行ったのは昨年のことで、あまりに透明すぎる池の中で、何匹かのアユが立派に縄張りを主張している光景に目を奪われた。こういう養殖アユを食べていると、必ずしも天然の方が上、と単純な話ではないということが分かる。そもそも、先に述べたようによい天然というものはほとんどないわけだから、しかしよい養殖というものがどれほどあるだろうか。もちろん、よいの基準は天然のよい、である。
さて手元に届いたアユはピカピカで、重さは65から68グラムといったところ。こういう小振りな個体は背ごしやたたきに向いている。もはや暑いので、夏向きの冷や汁を作る。
まずは冷や汁に使う汁で、これはいりこの水だしがもっともよい。ただしあまりに濃いのはダメで、アユを殺さないよう薄めにする。ここにうすくち醤油を本当にわずかに加えておく。これも多すぎては全く台無しになっていけない。
アユは鱗を掻いてから、頭、内臓を除いて、氷水の中で腹のところを丁寧に洗う。骨に沿う血や腎臓をこき出し、黒い膜もぜんぶ取る。ただしやさしくやる。水気を拭き取ったら背鰭、しり鰭、腹鰭と各部の鰭を切り取り、厚さ4ミリ程度で背ごしにしていく。これをさらに粗く叩いてから、タデの刻んだものを加えてさらに叩く。完全にすり身状にはせず、ほどほどに粗さが残っていた方が食べるのが楽しい。最後にわずかの塩を振りかけてさっと混ぜ込んでおく。ミョウガを好みのように刻み、柴漬けも細かく刻む。今は刻んだものも売られているのでそれでも構わない。
炊きざましの冷や飯にアユの肉を平たく乗せ、その上に柴漬け、ミョウガと加えて、常温程度の冷や汁をたっぷり注ぐ。アユの質が良ければ、ネギや生姜のような強い薬味は避けなければならない。それはアユの風味をできるだけ生かすためなのであって、冷や汁のだしにカツオというのも主張が強くていけない。アユのだしを使う手もありこれは上等だけれど、うすい番茶にしょうゆをたらり、というのも悪くない。タデは近所の河原で、柔らかくて辛みの強いものを選んで摘んできた。