私はおいしいものが好きなので、盛りの時期以外にはあまり川魚を採らない。必要に応じて採ることはもちろんあるけれど、それは食べたいから、とは少し違う。
鯉の場合、いちばんうまいのはやはり大寒からそれを少し過ぎた頃までで、そのあととなると次第に肉の味が抜けてくる。産卵のため、生殖腺に栄養がとられていくためだ。鯉ほどの魚であれば、産卵してそこで死ぬ、わけでなく、何年も産卵を続けるせいか、ものすごくひどいということではない。あくまで一番よい時期に比べて劣るという話で、その時期が大まかに言えば3月から、6月までとなる。夏になれば体力は回復しきっているものの、今度は水のにおいが肉につくという問題が生じるので、結局食べるのは10月末から2月までになる。養殖の場合には年中問題なく食べられる。
さて川で出会ったおじさんが捕まえた、6キロはあるかという大鯉をいただいた。おろして同行者と山分けして、5日かけてどうにか食べた。やはり味は落ちるが、骨から出る味はそうそう変わらないので汁はたいへんよろしかった。
肉の方は、色々として食べたが問題はこれだけ大きい鯉が産卵を控えると、どうしても骨がましくなる点にある。普通に刺し身として引くと小骨ならぬ大骨が気になる。ただ、腹側には肉間骨がないのでその点心配は無用である。このうち、肋骨のない腹中の腹ビレ周りはもっとも肉がうすく、皮もうすいがつまみには一番の部位だ。
ほんの少しだけ塩を加えた湯を沸かして、ここにこの肉を塊のまま、投入する。2割くらい火を通したら冷水にとり、皮の方を指でしごいてよく洗う。ぬめり気が残っていると台無しになるからだ。そうして水気をしっかり拭いたら、皮ごと包丁で薄く、厚さ3ミリ内外に細切りして、鷹の爪、二杯酢をかける。鯉一匹でノミカタをする際には、必ず酒のつまみに出す一品だと教えてもらった。