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ふなみそ その2

本当にたくさんの方に先の記事をお読みいただいたようで、心からうれしく思う。地域の文化は、継承者がいなければいとも簡単に潰えてしまう。あなたの身近にも、ふなみそ作りの先達がいらっしゃるかもしれない。もしそうなら、作り方を習い、そして文字に残してほしい。できれば、自分でも作ってみてほしい。継承者は多ければ多い方がいい。
さて、まだ少しフナが余っていたので、別の作り方でもふなみそをする。こちらは、鱗のついたまま、焼かずに炊く方法その1だ。今回は25センチほどのフナを3匹と、20センチほどのフナが1匹。サイズが揃わないこともある。


まずはフナの頭を叩いておとなしくさせ、エラを切って血を出す。鱗を取らずに腹の右側から刃を入れ、内蔵をあらかた出す。この際、胸鰭のあたりにある苦玉(胆のう。黒っぽいのですぐ分かる)を傷付けないように気を付ける。腹の中をよく洗い、血をある程度拭き取る。鍋にたっぷりと湯を沸かして、ここに放り込む。生きたまま放り込むと暴れて危ないので、ふたをすること。また生きたままだと鱗がある程度剥がれてしまう。本当はしばらく置いて、フナが絶命してからやるとよい。今回はまだフナが生きていたので、湯に入れたら鱗がかなり剥がれてしまった。
湯に入れたフナを30秒ほどで取り出し、冷水で軽く洗う。鍋に豆(目黒豆)を敷き詰め、その上に湯引いたフナを乗せて、たっぷりの番茶の煮出し汁で煮る。(フナが小さい場合には、豆だけ先に1時間程度煮ておくのがよい。)豆の量はフナが4匹だけだったので、150グラムとした。はじめは強火で煮て、あくがたっぷり出てくるからこれをよく掬いとる。


15分ほど強火で煮たら、あとは中弱火に落として煮る。生から煮ている分、強火にあたって形崩れしやすい。煮あげざるを使うと魚が泳がないので、少しは崩れにくくなる。これで都合4時間程度、水が減ったらその分を足しながら煮る。水から出ている部分は当然煮えないので、できるたまけ小まめに差し水する。この間、左右をひっくり返したりする必要はなく、もしそんなことをしたらたちまちに煮崩れてしまうだろう。とにかく、フナを触らない。はじめは番茶の色で少々緑がかっていた煮汁が、次第に茶色になってくる。


4時間連続で煮るのが難しかったら、1時間ずつに分けてもよい。4時間というのは目安で、フナが大きければもう少しかかる。これを過ぎたら味噌を溶き入れる。豆味噌300グラムに、黄ざらめを200グラム。合計500グラムを煮汁でよく溶いてから加える。味噌が全体に馴染んだら一端火を止めて冷ます。翌朝から火を入れ、ときどき鍋を揺すりながら2時間ほどかけて弱火で煮詰めたらできあがりとなる。これは調味料の分量が多いので長持ちする。しっかり冷めてから慎重に取り出し、小分けして保存する。


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