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思い出のポテトサラダで

我が家の思い出の味のひとつにポテトサラダがある。我が家では毎月必ず一度はポテトサラダ、ポテサラを食べていた。その味に慣れすぎて、はじめて家の外で食べた"ポテトサラダ"と称される食べ物を受け付けなかったほどだ。我が家は品数の多い食卓が特徴で、これは父親の影響によるものだが、ポテサラはその救世主となっていたふしがある。これは一度にたくさんでき、しかも残った分は翌日にも食べられる。
私は母親からほとんど料理を習ったことがない。習ったものと言えばきゅうりの切り方(これは家庭科のために必要だった)、卵のゆで方、ホットケーキの焼き方、チーズケーキの作り方、味噌汁の味噌の溶き方と、だいたいこの程度である。他の料理は勝手に見て覚えたし、覚えていないものもある。餃子やお好み焼き、ハンバーグなどは小さい頃から一緒に作っていた。ポテトサラダは、芋をつぶすところとマヨネーズを混ぜるところだけ手伝ったことがある。家庭料理について考えていたらそんなことを思い出したのだった。
さて、それではそのポテトサラダを作ってみたい。じゃがいも650グラム、巨大なのなら2個、中くらいなら4個くらいになるものをしっかりとこすり洗いして、傷んだところや芽の部分を取り除いたらだいたいピンポン玉程度の大きさにカットしてレンジにかける。耐熱ガラスのボウルに入れて、ふわっとすき間ができるようにラップをかける。700ワットで5分、5分、4分と、計14分チンしてようやく火が通る。チンした直後は熱すぎるので、しばらくさましておく。
新玉ねぎ4分の1は薄くみじん切りにしておく。きゅうり1本は薄切り。りんご半分を四つ割りにして、へたのところ、たねのところを取り除いたら皮つきのまま薄切りにする。0.1%くらいの塩水に浸けて色止めすることを忘れずに。3分くらいで水気を切る。あら熱が取れてきたじゃがいもの皮を剥く。きちんと火が通っていれば、爪先で剥がすようにして指で剥くことができる。まだ熱いから、ときどき指先を水に浸して、冷やしながらあつあつっと剥いていく。剥き終えたら棒でよくつぶす。へらなんかでつぶしてもいい。よくつぶれたらここに新玉ねぎと、ゆで卵のみじん切りも加える。そう、ゆで卵が必要。これは別で作っておいて、やや粗くみじん切りにして加える。ここにマヨネーズを50から60グラム、加える。マヨネーズが好きならもう少し増やしてもいい。塩コショウ少々も振って、へらや大きめのスプーンでよく混ぜる。温度が人肌くらいになったらきゅうりとりんごも混ぜる。味を見て、十分ならできあがり。これで4人前ほどになる。食べたいだけ食べられる。


マヨネーズが少ないとパサパサした食感の気になるのがポテトサラダというものだ。はじめて家の外で食べたポテトサラダは、白くて、やけにシャリシャリしていて、しかもパサパサで、りんごも入っていないということに衝撃を受け、心底失望したものだ。一方で私はマヨネーズくどいのが苦手でもあったので(今も得意ではない)、自家製ポテサラのりんごの爽やかさがうれしかった。ときどきりんごがないことがあるとあからさまにほとんど食べないため、母親が気を利かせてシーズンを問わずできるだけりんごを入れるようにしてくれていた。ぜいたくものの子供だったのだ。

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カワムツを食べる

カワムツという魚がいる。海のムツではなく、川のムツ。ムツというのは古語である。海のムツといえば今や高級魚の末席にあるような魚だけれど、カワムツはどうだろう。昔持っていた釣魚図鑑には不味と書いてあったし、そのほかの文献を読んでみてもオイカワより味は劣る、とか、とにかく比較的評判が悪いことが多い。私は幼少の頃からオイカワのおいしさを知っていたものの、カワムツについてはこうした事情からかなり最近まで食べる機会を逸していた。そもそも、カワムツはオイカワに比べると川の上流側、淵のような深いところにいることが多くて、私の主な活動範囲である平野部の浅い水路にはなかなか出てこない。少なくとも愛知県ではそうだった。 西日本で一般に川の小魚と言えばオイカワになると思うのだけれど、山手に進むとカワムツに変わる。たしかに、ここ九州でもカワムツはオイカワよりもより上流まで分布している。ヤマソバヤという呼び名は山にいるはやという意味をもつ。この山のハヤがひとびとにとっての重要なタンパク源であったことは疑う余地をもたない。その割に文献資料に欠けるので、やっぱり自分の足で昔の記憶を尋ねて歩く必要があるし、単にハヤとされている資料ではそれがカワムツであったのかオイカワか、またウグイやその他かということが分からない(文脈で分かることもある)。 さてそのカワムツを食べたくて、水辺に出掛けては黒々と群れをなしているところに突っ込んで、大小を取り合わせて持ち帰る。この時期は暑さですぐに肉が痛んでしまうから、よく冷やして持ち帰る。川のハヤは焼いたり揚げたりして食べる分には鱗をとる必要がない。大きなものは腹の中央あたりに包丁の切っ先で小さな切れ目を作り、そこから絞るようにして内蔵を押し出す。口からまっすぐではなく、少し尾がせり上がるようにして串を打つ。すなわち、串の先端は内臓の空洞を通って、臀びれの末端あたりから出す。平たい串を使えばこれでも魚が回ることはない。普通の塩焼きに比べたらかなり多い量の塩を振って、"塩だまり"ができるようなかたちで、手で塗りたくるようにして全身に回す。これをうまく焼き上げたら塩焼きとなる。家庭用の魚焼きグリルでも問題なくできる。はじめは強火で表面の水分を飛ばし、あとは弱火にして25分ほどかけて焼き上げる。焦がしすぎてはいけない。中まで焼けているかどうかという...

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