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今年もてこねをした

 忙しい日々からは解放されていないけれど、少しずつ自炊を再開している。そんな折りにスーパーの店先(この表現はおかしいと思う)に春らしいイサキを見つけた。30センチを超える大きなものと、25センチに満たない小さな(実際にはイサキとしては中くらい)ものがあって、前者の値段が900円ほど。対して後者はひとつ180円だった。刺身になる魚というのは、大きさによって値段が異なるのが普通である。それは単なる大きさのちがいに伴うグラム数のちがいだけではなくて、そもそものグラム単価が異なる。特に刺身になるような魚ではこの差が顕著になる。どちらも長崎産で姿からして網のもの(刺し網なのか、体に痕がついている)だろうな、もちろん大きな方が値打ちがある。ただ小イサキのぷっくりした腹と口元のあたりを見てみて、これはきっといいものだろうと信じて大を買わずに小ふたつを買う。これらは信じた通りの当たりの個体で、いずれもメス、腹にはしっかり脂肪の塊が詰まっていた。イサキの産卵は初夏で、長崎なら7~8月頃だ。これからどんどん卵も白子も膨らんでいく。実際産み始めるまでは肉にも脂のあるままだけれども、小さいものはやっぱり卵に栄養が取られるのか、特にメスではやや味が落ちてくる。イサキの雌雄を外見から見分けることはまず無理だし、だから小さくていいイサキを買うなら5月一杯くらいまでが確実だ。

これらのイサキはてこねずしにする。最近、過去にブログに書いた分量が果たして正確なのか、気にしている。志摩の漁師は刺身やてこねを作る時、鱗を取らずにそのままおろすことがある。これはひと手間が減るだけではなくて、そのあとの皮引きが楽になるという副次的なメリットもあるやり方だ。ただし肉に多少の鱗がつくので口に鱗が入っても気にならないひとにしか使えない。

私はそれが気にならないので、鱗のまま頭を落として内臓を取り、三枚におろして皮を引く。背側と腹に分けて、刺身より少し大きめに切る。今日は3人前作るつもりなので、2匹とも使って、漬けだれは濃口醤油大さじ3に、白砂糖大さじ2(もっと甘い家もある)。よく混ぜてから漬け込む。このとき、新玉ねぎのみじん切りもいくらか加える。玉ねぎを加えるのは、御座で教えてもらった方法で、甘辛いてこねだれ、魚の生臭さとの組み合わせとしてはたいへんよろしい。家によってしょうがを加えることもある。

米2合は30分浸水させてから早炊きで、水少なめで炊いておく。ここに酢大さじ2と白砂糖小さじ1.5を合わせた甘酢を振りかけてさっくりと混ぜておく。少し冷めたら先の漬けだれをさじに2杯とってかける。さらに冷めて50度くらいになったらイサキの漬け身の汁気を軽く切って(切りすぎてはいけない)、ご飯と混ぜ合わせる。皿に盛って大葉を載せる。イサキは肉が硬くて脂も多いものだから1時間くらいは漬けた方がよく、アジのような魚ならもう少し短くても構わない。食べきれない分は茶漬けやチャーハンにしてもよい。



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カワムツを食べる

カワムツという魚がいる。海のムツではなく、川のムツ。ムツというのは古語である。海のムツといえば今や高級魚の末席にあるような魚だけれど、カワムツはどうだろう。昔持っていた釣魚図鑑には不味と書いてあったし、そのほかの文献を読んでみてもオイカワより味は劣る、とか、とにかく比較的評判が悪いことが多い。私は幼少の頃からオイカワのおいしさを知っていたものの、カワムツについてはこうした事情からかなり最近まで食べる機会を逸していた。そもそも、カワムツはオイカワに比べると川の上流側、淵のような深いところにいることが多くて、私の主な活動範囲である平野部の浅い水路にはなかなか出てこない。少なくとも愛知県ではそうだった。 西日本で一般に川の小魚と言えばオイカワになると思うのだけれど、山手に進むとカワムツに変わる。たしかに、ここ九州でもカワムツはオイカワよりもより上流まで分布している。ヤマソバヤという呼び名は山にいるはやという意味をもつ。この山のハヤがひとびとにとっての重要なタンパク源であったことは疑う余地をもたない。その割に文献資料に欠けるので、やっぱり自分の足で昔の記憶を尋ねて歩く必要があるし、単にハヤとされている資料ではそれがカワムツであったのかオイカワか、またウグイやその他かということが分からない(文脈で分かることもある)。 さてそのカワムツを食べたくて、水辺に出掛けては黒々と群れをなしているところに突っ込んで、大小を取り合わせて持ち帰る。この時期は暑さですぐに肉が痛んでしまうから、よく冷やして持ち帰る。川のハヤは焼いたり揚げたりして食べる分には鱗をとる必要がない。大きなものは腹の中央あたりに包丁の切っ先で小さな切れ目を作り、そこから絞るようにして内蔵を押し出す。口からまっすぐではなく、少し尾がせり上がるようにして串を打つ。すなわち、串の先端は内臓の空洞を通って、臀びれの末端あたりから出す。平たい串を使えばこれでも魚が回ることはない。普通の塩焼きに比べたらかなり多い量の塩を振って、"塩だまり"ができるようなかたちで、手で塗りたくるようにして全身に回す。これをうまく焼き上げたら塩焼きとなる。家庭用の魚焼きグリルでも問題なくできる。はじめは強火で表面の水分を飛ばし、あとは弱火にして25分ほどかけて焼き上げる。焦がしすぎてはいけない。中まで焼けているかどうかという...

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