私は青菜が好きで、さらに言うとその漬け物も好きだ。そういうわけで各地でよく分からない青い菜や、その漬け物を買っている。
三重県には朝熊小菜というものがあって、これが小松菜の仲間ではない菜だ。形は大根の抜き菜に似ているけれども、葉が先の方だけに固まってついている。伊勢地方の朝熊山で作られる在来の菜なのでこの名がある。なお、香りはやはり大根の抜き菜に似ている。
アブラナ科なので採種はきっと簡単なのだと思うが育てるのが難しいらしい。というのも、朝熊を離れて他の場所で種をまくと、育ちすぎてしまって朝熊小菜としての形を保てないというのだ。朝熊の冷気を引き受けて、抑制的に育つ。それではじめてしなやかで長い葉柄ができていく。
この小菜は汁にしてうまく、何より漬け物がうまい。塩だけで漬かった小菜漬、特に寒さの塩梅がもっともよくなる頃合いのものは塩気(かなり薄い)と葉柄の甘みのバランスが最高になり、また風味もよくなる。この茎のところだけを細かく刻んで、炊き立てのご飯に混ぜ込んだり、あるいは湯がけにすると風味が立つ。葉の部分についても混ぜ込んだらいいのだけれど、それはしないで適当に刻んで汁に使う。その方がよりぜいたくで、小菜の個性を楽しめる。全くもったいない食べ方がひきわりの納豆と混ぜることで、少量の納豆と、大量の小菜漬を混ぜるのがいい。
この最高の小菜を送ってくれるけもさんに心からのお礼を言いたい。絶妙な気候の育む朝熊小菜、いつまでもありますように。