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イイダコのたこめし

 福岡にいると馴染みがない気がするのがイイダコである。実際には有明海で一定の漁があり、また玄界灘にも生息しているものの、有明海では例によって減少が著しいためか、普通の魚屋、スーパーでは見かけることが本当に稀だ。たまにあ、と思うと、それはベトナムからの輸入品であったりする。 たまたま大阪を訪れたとき、出始めだったのがイイダコだ。オスとメスでは子を抱いているか否かで値打ちがちがうので、原則分別されて売られている。もちろん、メスの方が高値だ。まだ冬にもなっていないのに、子が十分あるというから魚屋の口車に乗せられて、10杯セットで買ってきた。中の墨や粘液、目玉はあらかた掃除されていて、もうあとは料理するばかりの親切が購入を後押しした。 イイダコと言えばなんだろう。子を活かすのはやはり煮ダコだと思うけれど、子のあまり入っていないものはぶつ切りにして大根や里芋なども炊くのもよろしい。もちろん、たこめしにしたってマダコに劣らずイイダコなりのよさが現れるものだ。特に瀬戸内海の各所では、マダコだけでなくイイダコもたこめしの具材になってきた。 さてイイダコは処理済みのものながら、まずはざるに受けて水洗いし、余計な汚れを落とす。水の中にイイダコを入れて、ゆっくりと火を加えていくと徐々に足が、ものの見事に巻いてくる。一気に強火で沸かしてしまうと中の子、つまりは飯が溢れてしまうから、ゆるゆるの火で、沸騰直前で火を止める。たこめしにするならもうこの程度でかまわない。イイダコを湯から取り出してそのまま冷ます。 茹で汁を強火で沸かしてあくをすくい、ここに好みの醤油と酒を加えて、うすい汁にする。少しくらいは甘みをつけてもいいし、好みでしょうがの薄切りを少し加えて香りをつけてもいい。この日はわずかながら上白糖を加えた。米は研いで30分ほど水を吸わせ、ここに今作った味付け煮汁を加える。今日は鍋炊きだ。弱火でゆっくり沸かして、沸いたらぶつ切りにしたイイダコと、適当な幅(少しだけ大きめ)にしたネギを被せて、ふたをして弱火で加熱していく。10分程度で炊き上がるのでこのあたりで火を止めて少しだけ蒸らす。焦げたところがうまいので、火を止める前、もしくは蒸らしたあとに中火にかけると底面に焦げができる。マダコと同じタコだけれど、イイダコにはイイダコなりの香りがあるな、と思う。