スキップしてメイン コンテンツに移動

投稿

11月, 2020の投稿を表示しています

少量でもボラ雑炊は作れる

 広大な汽水域のもたらすめぐみは大きく、またそれを失ったときの喪失は計り知れない。海の魚に比べて入手の容易だったボラはデルタ地帯のひとびとにとって重要な川のめぐみだった。 過日の濃尾平野において、大勢のひとの集まるときには、かきまわし、またはかきましという炊き込みご飯が作られていた。かきまわしに入るのはたいていかしわの肉(鶏肉)だが、これをコイで作ることも地域によってはあった。ときにコイ飯、コイごはんと呼ばれるものである。これが海へ近づくとボラに変わる。その地域的呼び名がボラ雑炊である。ボラ雑炊は「最近はよりやぁ(寄り合い)がないし、ボラもおらんもんだでたべれぇせん」というように、大勢の集まりに限って作られる。なにせ、一度に大量にできてしまうものだから、年寄り二人暮らしでは手に余りすぎる。これは、ボラを丸ごと炊き込んで作らないと不味い、という思い込みのせいだと思う。思えば私も、少量のボラ雑炊というものを作ってみたことがないから、思い立って試作してみる。 ボラは鱗を落としてから二枚におろして、骨付きの側を使う。腹のところをよく洗って、黒い皮をできるだけ取る。大きなボラならだいたい半分くらいに切って、300グラム。これに皮側から1、2と切れ込みを入れておく。内臓には砂嚢(へそ)があるから、これを取り出してまわりの臓器を取り除き、縦に半分に割る。中をきれいに濯いだら各三等分、要するに、へそ全体を六等分にくし切りにする。 ごはん二合半をといで、30分待つ。ここに濃口醤油(甘くないもの)を35cc、さらに水を加えてちょうど二合半の目盛りにくるようにする。ニンジン約半分を細切りしたもの、あげ1枚を細切りしたもの、小口切りしたねぎ1本を加えて、その上にボラの切り身とへそを乗せる。酒15ccを振りかけて、早炊きで30分で炊きあげる。 炊き上がったらボラの切り身を取り出し、皮をとって手早く身と骨とに分け、身を釜に戻してかき混ぜる。米の粒を潰さないように、掻くように混ぜる。味をみて薄ければ塩を少し振る。 二枚にして切れ目を入れれば少量を炊飯器でもできるのだ。ボラが臭いときには、下茹でしてから炊き込んだり、刻んだしょうがを加えたりもする。また炊きはじめに蓋をしないで炊いた方が、要するに鍋で炊いた方がにおいが飛んでいく。しかし臭いものはやっぱり臭い。くさいボラは脂がにおうのだ。 私は寒に入

ボラ味噌のこと

 過日、野母崎でボラのことを調べてきた。結論から言うと野母崎ではボラを食べることができなかったのだけれど(漁期が格段に短くなっているらしい)、その代わりにボラを食べたいという気持ちが強くなった。そういえば、ボラカレー以来ボラを食べていない。 私の郷里はもともとボラをよく食べる地域で、ボラの刺身を見かけることもさして珍しくはないところだ。それも寒に限ったものではなくて、限られた店舗とはいえ初夏なんかにも置いてある。伊勢湾台風で河口がごっそり締め切られるまでは、広大な汽水域にたくさんのボラがやってきていたのだ。私の家もボラがすきで、近所のひとが鳥羽あたりで釣ってくるものを毎年いただいては、塩焼きなどで食べていた。白身の塩焼きのうまさはボラで知ったといっても過言ではない。あとタイ。要するにボラの塩焼きはタイのそれに比肩しうるうまさだったのだ。これは夏だったと思う。 さて、小学校から同じだった同級生に、婆さんが作るボラ味噌ばっかり食べさせられて嫌になると話すのがいた。そのお婆さんはフナのいいものが手に入らないので、ボラを使ってボラ味噌を作っていた。ボラ味噌は少なくとも津島市、蟹江町で作られていたもので、よくは調べていないがほかでも作られていたはずだ。魚屋に頼んでボラを一本買いして、このボラ味噌を作ってみる。まずは、蟹江で作られていた方法だ。 ボラは鱗を落としたら包丁の背でよくヌメリを落とす。内臓を傷つけないように腹を割いてワタを取り出し、頭を落としてから二枚におろす。これを数センチ幅に切っておく。腹の黒い膜はできるだけこそげる。鍋に水1リットル、そこへ皮を剥いて3センチ幅に輪切りにしただいこん、小さめのものを半分と、5センチ程度に切ったごぼう1本とを加えて中火にかける。沸騰したらボラの切り身250グラム(骨付き)を加えて、中火でしばらく煮る。この間、よくアクが出るのでしっかり取る。ここまでふたをしない。 5分ばかり炊いたら弱火にして、20分ほど炊くとだいこんに火が通ってくる。そうしたら豆味噌100グラムを鍋の煮汁でよく溶いて加え、全体が馴染んだところで火を止める。一晩冷ましてからふたたび弱火で火を加え、鍋全体が暖まったらざらめ30グラムを加えて、落し蓋をかけたらごく弱火で2時間ほどかけて煮る。煮汁がカレーくらいどろっとしたくらいになったところで火を止める。これでできあがりで

村上のサケで粕汁

 このところの寒気で、福岡もぐーっと冷え込んできた。我が家の室温もついに20℃を切り、着実に冬へと向かっていることを実感する。 ところで、11月11日は鮭の日であるらしい。鮭という字の中に土土、すなわち11がふたつ含まれていることに因むもの。それならと冷凍庫から村上の鮭を掘り出して、鮭の粕汁を作ってみる。新潟村上では今も伝統的な製法で塩引き鮭が脈々と作りつづけられている。これは加工業者の話だけれど、なかには自宅で塩引き鮭を作る方もいるようだ。この塩引き鮭は今どきの甘塩サケに比べるとかなり塩辛いが、その分熟成したうまみの豊かなものである。焼いて食べるのもいいし、ほぐしてサケご飯にするのもいい。もちろん、粕煮、粕汁にはもってこいだ。 ここでの材料は四人分。塩引き鮭のカマをひとくち大に切り分けて、さっと湯通しする。サケは骨が柔らかいので、普通の包丁で切り分けられる。皮を取ったりしてはいけない。里芋3個は皮を剥いてから厚さ1センチほどに切って、流水で少しすすぐ。ごぼう2分の1本、小さなものなら1本をささがきに、にんじん2分の1本とだいこん5分の1本は少し太めの拍子切りにする。にんじんの方は厚さ5ミリ程度に縦に切ってから、同程度に切って、またこれを半分にする。だいこんは皮を剥いて、これまた5ミリ厚に輪切りにしてから同程度に切ると拍子切りになる。 水4カップに湯引きしたサケを加えて中火にかけ、煮立ったらアクを取る。そこへ里芋、にんじん、だいこんを加えて、中火で煮ながらアクをときどき取る。5分ばかり煮たら酒かす100グラムを味噌溶きを使って溶き入れ、弱火に落として10分。最後、小口切りにしたねぎと、適当に切った椎茸も加えて3分煮る。余計な味付けはしないが、好みでわずかに白味噌を加えてもいい。 根の野菜をたっぷり加えた粕汁で、からだがよく暖まる。またこの中の鮭のうまいことで、日本の気候と、鮭という北の海からの恩恵に思いを馳せるのも悪くはないだろう。村上は鮭の資源保護の先進地である。