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2月, 2020の投稿を表示しています

出雲ののり雑煮

日本各地の雑煮の中には、のりと称する海藻の入ったものが沢山あると思われる。この中でも、のりそのものが主役級の役割を果たすもののひとつが、出雲を中心とした地域で食べられているのり雑煮である。 日本にはのりと名のつく食用藻類が豊富にある。出雲には、十六島海苔、うっぷるいのりという、不思議な名前ののりがあり、これがその主役である。アマノリ科の種で、実際の和名もウップルイノリなのだからびっくりだ。出雲の岬地、十六島に由来するもので、ほかにもかもじのり、いわのりといった呼び名がある。なお国内でいわのりと呼ばれている海藻には複数の種が含まれるようだ。 このウップルイノリは板海苔にしたものが出回っているから、これを買う。もちろん地元でしか流通しないもののため、島根を旅したときにこれだけは買わないといけないと思い買い求めてきた。雑煮のだしにはスルメやいりこ、アユを使う。これは地域によって異なるもので、斐伊川の流域では干しアユとなる。ちょうど手元に干しアユがやってきたので、こののり雑煮を作ってみることにした。以下はだいたい2人前。 小鍋に2カップ半の水を張り、干しアユを1尾、あるいはぜいたくに2尾、表面をさっと洗って一晩浸す。中火にかけて沸騰したら火を弱めて10分ほど煮る。アユを取り出したら薄口醤油大さじ1、塩小さじ半分程度で調味する。丸餅を別の鍋でゆでて、お椀に汁ともちを入れる。ウップルイノリは2枚を日本酒(いいものを使う)をかけてふやかし、ほぐしたものをお椀にあしらう。酒がきついのが苦手ならば、煮きって冷ましたものを使ってもいい。全くもってシンプルな料理だ。 ウップルイノリはたいへん香りがいい。そこに良質の酒の香が加わり、また控えめなアユのだしがにくらしい。絶妙な海洋のバランスによって生じるこの海苔がなければ、この一杯は成立し得ない。

持ち帰った生魚で湖魚料理 その2

ここに記している湖魚の料理法が役に立つことはおそらくほぼないだろう。それでも、こうして書きとめておくことに何らかの意味があるかもしれない。そういう気持ちでこの記事をしたためている。 ひおというコアユの若いのは、まだアユかどうかも分からないような、ガラス細工のような美しさをたたえている。こういうものをまずは食べてみるべきである。湖岸で一般的な調理法と言えば、まず釜揚げ。たっぷりの湯に塩をとかして、コアユをぱらぱらと加える。色が変わったらざるに取り上げて、少し広げてそのまま冷ます。これはそのまま食べてもうまいし、ポン酢に大根おろしをかけても、またそのまま寒風に干して、煮干しにしたものをしごしごと噛んで食べるのもいい。生のものをそのまま炊き込んだご飯もある。これらは産地ならではの味、ということになるだろう。 今回は移動のために少し鮮度が落ちてしまったので、普通に釜揚げにすると崩れてしまうのが惜しい。なので、若煮、あるいは若炊きと呼ばれる炊き方で炊いてから食べることにする。若炊きの若は、炊きが浅いということ。ひうおは普通の魚よりも断然柔らかいから、長く炊く必要がない。またその味気も淡くていい。これを煮崩さないコツは、箸でかき混ぜないこと、沸騰した煮汁に温度が下がらないよう少しずつ加えること、煮汁に入れた魚が泳がない(動かない)ように煮ることだ。最後のひとつを実現する方法はふたつあり、ひとつはごく弱い火で炊く、もうひとつは煮汁の粘度を高くして煮るというものだ。好み次第でどちらの炊き方を選んでもいい。ひおを炊くときには水飴は不要で、醤油と、砂糖と、水だけで炊く。水1カップ半に濃口醤油を大さじ3、薄口醤油を大さじ2、みりんを大さじ3、上白糖を大さじ2加えて煮立てて、ひおをぱらぱらと塊にならないように加える。そのまま中弱火にして(魚が泳ぎすぎないような煮加減にすること)30分、煮汁が半分くらいになるまで煮たら、汁を除いて汁気をとばす。とばすと言っても、単に平たいざるやバットなどに広げておくだけでいい。なおこの煮汁は他の料理に転用できるのでとっておく。 さてその炊き上がったひおはもちろんそのまま食べてもいいのだけれど、炊き込みご飯にするととてもおいしい。米2合を洗って、普通に炊飯する程度に水を加えて、薄口醤油を大さじ1杯加えて混ぜておく。中央にひおをひとつかみ乗せて、普通に炊飯

持ち帰った生魚で湖魚料理 その1

湖魚食べまくりツアーを通じて、さまざまな土産を購入して帰った。この時期ならではの新鮮なひおや、もろこ、いさざが並んでいるのを見たら、やっぱり買わずにはいられない。滋賀県の川魚店、道の駅では購入しづらいものを中心に、いくつか料理してみた。 大きなホンモロコは醤油汁にする。浜炊きといって、沖島では冬の地引き網の時期に獲れすぎた魚を浜に巨大な鍋を置き、炊いて食べていた。この魚としてはコイやニゴロブナのほか、ハスやホンモロコも使われたという。とにかくたくさん獲れたものを使うということだ。家庭でこれを再現するのは不可能であるので、これを縮小して作る。 鍋に水6カップと、濃口醤油大さじ2杯を入れて沸かす。沸騰したら、大きめに刻んだ小振りの玉ねぎ1個と、大きなホンモロコ10匹ほどを鱗も腹もそのままで加える。最初に少しだけあくがでるが、ホンモロコはほとんどあくが出ない。これを中火で1時間ほど炊く。箸でかき混ぜたりしてはいけない。終わり際に幅2センチほどに切った太ねぎを加えて、これに火が通ったらできあがり。いたってシンプルなもの。沖島では伝統的に平たい瀬戸物で汁魚を食べる。これは魚を食べやすくする工夫だという。我が家にもちょうど平たい瀬戸物がある。 イサザはイサザ豆にする予定だったのが、かなり大きなものがたくさん含まれていたため、まずゅんじゅんにする。じゅんじゅんはすき焼きのことで、滋賀県では牛肉の他、イサザ、コアユ、ウナギ、ナマズ、コイといったものがじゅんじゅんになる。魚すきの一種とも言える。基本型は甘辛い味付けのものになるが、薄味のだしで仕立てたものもある。 イサザのじゅんじゅんには、野菜の上に生のイサザを乗せて炊く方法と、イサザをはじめに炊いてから野菜を被せていく方法とがある。また地域によって具材も多少のちがいがみられる。今回は「作ってみよう滋賀の味」(滋賀の食事文化研究会)にならい、先にイサザを炊く。イサザは表面のぬめりが強いので、まずはざるに入れてよく洗う。強く洗うと腹が潰れてしまうから、加減をして洗う。少し塩を加えて軽く揉むようにして洗ってもいいが、新しいものではかえって野趣を損なう。鍋に水1カップと濃口醤油大さじ3、上白糖大さじ2杯を沸かす。沸いたところへイサザ100グラムを加えて、中火で3分ほど炊く。多少のあくが出てくるのでこれを取りながら

湖魚食べまくりツアー

去る2月15-16日に湖魚食べまくりツアーを行ったので、その顛末を備忘的に記しておきたい。 ことの発端は3年前、ツイッター、あるいはツイキャス上での何気ない会話に遡る。関東のある方が私の妙なツイートを見てなのか、淡水魚をあまり食べていないという話題を持ち出し、挑戦してみたいという。それなら、まずはうまいもんから食べるべきであるから、琵琶湖に一緒に食べに行きますか?という話をした。会ったこともない、ネット上での社交辞令にも思える一瞬の会話。義理がたい私はこういうことを覚えておいてしまう節がある。だから私は口軽くあれこれ約束をしないのだ、と言いたいところなのだけど、実際にはしてしまう。そういうものが頭の中に積み上がっていく。 琵琶湖、そしてその集水エリアには中学生の頃から幾度となく訪れてきた。この目的はあくまで豊かな淡水魚の多様性に触れるためであったが、その過程で各所の川魚店、サービスエリアで佃煮、甘露煮の類に親しんできた。大学生になってからは、ふなずしのことを知るためにありとあらゆる価格帯のふなずしを食べ比べたりした。それでも、実を言うと滋賀県の食事処や宿泊施設で湖魚を味わったのはたったの2回しかない。これには、琵琶湖の食文化、漁労文化は他の地域に比べて十分調べられているし、またそれは現在進行形であったりするものだから、そこに時間を割いていく必要性をあまり感じなかったから、ということがある。若い貧乏学生にとって、限られた資源(資金)をどのように使うかというのは、文字通り死活問題になる。しかし、琵琶湖のことをなまじ文献でしか知らないで、淡水魚の食について語るなどということは到底できないというのもまた事実である。 そんなこんなでこのやりとりを思い出した私は、琵琶湖の金尾さんにこのアイディアを投げかけ、ついに湖魚食べまくりツアーが実現した。参加者はツイッターで募った7名の若者と、私の知人1名、コンシェルジュの金尾さん、そして私の10名である。私は前日から滋賀県入りし、勝手に前哨戦を行っていたが、その部分については割愛する。 1日目には北は北海道、南は福岡からのメンバーが琵琶湖博物館に集合し、館内のレストラン「にほのうみ」でランチ。かつてはバス天丼とナマズ天丼があくまで異端児メニューとして掲載されていたが、現在ではかなり馴染んでいるようだ。私はバスとビワマスの天ぷら、

日本の食生活全集について

日本の食文化を調べるにあたって、今や当たり前のように参照される存在が日本の食生活全集(農山漁村文化協会)だ。これは全国47都道府県について、聞き書きによって各地の昭和初期の食文化を記録したもので、ウェブサイトによれば「本全集(各県版+索引巻、全50巻)は、全国300地点、5000人の話者から「聞き書き」してできあがった世界最大の食文化データベースです(収録料理数5万2000点)。」ということである。 http://www.ruralnet.or.jp/zensyu/syoku/ さて、実際のところ、現在に至るまで、全国すべての地域の食文化を(比較的詳細に)縦覧できるような書物はこれを置いて他にはない。このような仕事はある種の使命感と、そして十分な金銭的投資がなければ実現しえないものだ。そもそも食文化を記録するという気風に乏しい我が国にとって、必要不可欠な仕事であったことには疑いの余地がない。一方で、私のような人間から見ると、このシリーズは役に立つようでほとんど役に立たないことが分かる。どういうことか。 本書の特徴は、食習慣に重きを置いた構成にある。日常の食事、おめでたいときの食事、四季折々の朝昼夕食といった切り口の章立てがすべての地域で徹底されている。このことは、日本の各地に存在した、明確なハレとケの食事、またその地域比較を容易にしている。ところが、肝心の料理、調理については全く心もとないものとなっている。料理の写真は限られたものにしかなく、料理方法の記述もきわめて断片的だ。たとえば、「聞き書き 福岡の食事」を読んでみる。そこにはドジョウ汁やナマズご飯など、魅力的な川魚の料理が含まれているが、料理については具材と、入れる順序くらいしか分からない。コイのあらいについても、うろこをとって3枚におろし、酢味噌を付けて食べる、とあるだけで、甘いのか、酸っぱいのかも分からず、写真もなくてはこの料理を再現できるはずがない。要するに、どのようなものが存在していたか、という概要の記録にはなっていても、伝承性というものが全く感じられず、「昔は面白かったね」というメッセージしか読み取れないのである。 もうひとつの問題点は、この聞き書きの対象者がことごとく女性であることにある。ウェブサイトにも「話者は、昭和初期(1930年頃)、川も海も空気もきれいだった時代に、農村や都会で台所

メモ:使っている醤油

これは単なるメモとしての記事。今主に使っている醤油について。基本的にたいしたものを使っていない。昔たまりだけが高い。醤油は最低限だけ、と思ってはいるけれども、さまざまな郷土の味をこなすためにはこれぐらいは必要だと思っている。 ・薄口醤油:うすくち醤油ダイキュウ印(大久醤油、福岡) ・濃口醤油:本醸造しょうゆこいくち(輸入元神戸物産、中国) ・濃口醤油:国産丸大豆醤油(山崎醸造、新潟) ・たまり醤油:本醸造たまりしょうゆ(輸入元神戸物産、中国) ・たまり醤油:昔たまり(はと屋、愛知) ・白醤油:白醤油(ヤマシン、愛知) ・九州の甘口な調味醤油、いわゆるうまくち:上級うまくちしょうゆ万能濃口(ニビシ醤油、福岡) ・さしみ醤油:あまくちさしみ特級・本醸造(フンドーキン、大分) ・さしみ醤油:さしみしょうゆ・粋(ごとう醤油、福岡) ・その他:老舗のこだわり醤油(日田醤油、大分)

岡山のドジョウで柳川鍋

ドジョウの定番料理といえば、やはりドジョウ汁と柳川鍋、ということになるだろう。いずれも一時は家庭料理の本にも載っていたほどメジャーなもので、日本各地で食べられていた。ドジョウが手に入っても、面倒が優先して唐揚げか汁にしてしまいがちになる。それでも本当にいい大ぶりのドジョウが手に入ることがあれば、そしてそれか冬場ならば柳川鍋をしたい。いいドジョウというのは、大きくて、かつ骨ばっていないもの。適当に太っているもの。今回の岡山のドジョウは、何に仕立ててもうまいだろうという上物だ。 私の場合、大ぶりのドジョウを1人前に8匹、ぜいたくに使う。ドジョウはビニール袋に入れて、泡盛を飲ませるとものすごく暴れるが日本酒を使うよりも早く扱いやすくなる。これを木の板に千枚通しで目打ちして開いていく。頭を右向き、つまり背中が自分の側に向くようにして、魚体の左側を上にして目打ちを目の直後に刺す。胸鰭の直後に切り目を入れ、背中から背骨に沿って開いたら、あとは背骨をざりざりと取る。尾びれ、頭を落としたらドジョウの開き身ができる。開いた身はさっと洗ってふき取り、皮をはじめ下にして素焼きする。焼きすぎてはダメで、7割がた火を通す。まだあたたかいものを新聞に包んで一晩置く。 柳川用の陶板鍋にかつおと昆布の合わせだしを1カップ、ここにうすいめのささがきにして、水にさらしたゴボウ20グラムほどを加える。溢れないように中火で煮立て、5分ほど煮てから薄口醤油とたまり醤油を各大さじ1、みりんを大さじ2杯加えて、そこにドジョウを皮を下にして放射状に並べて、弱火で10分ほど煮る。 ドジョウを入れるとあくが出るので、これを好み次第で取る。取らない方が野趣のある味わいになる。煮詰まってくるので水を少しだけ差す。最後に溶き卵をのの字を描くように中心から周囲に向かってかけ回し、少し箸でドジョウを引き上げてやると見た目が面白くなる。好みでねぎ(太い目がいい)と七味を振る。 柳川鍋にはもちろん、生の開きを使う方法もある。一度素焼きしておくと香ばしくて、また食感もひといき違ったものになる。面倒だけれど、年に一度くらい、いいドジョウがあるときならやってもいいなと思う。食べ終わったあとの汁はきわめてうまいので、もちろんご飯にかけて食べる。なお小さなドジョウならわざわざ開かないで、まるごと使った方がいい

宍道湖のフナ

島根の旅の余韻から、いまだ覚められずにいる。島根の旅は憧れの到達であり、そして発見、未知との遭遇の連続となった。 初めて島根、宍道湖に行きたいと思い至ったのは、もう7年も前のこと。2008年に見た築地での宍道湖のフナが忘れられずにいた。日本で一番のフナ。それが宍道湖にいる。福岡にやって来て、山陰が少しだけ近くなった。今年は雪がない。それで、眼遊さんに無理を言って、フナの漁を見せてもらうことになった。今年は例年にない極端な不漁のようで、フナは前の週に獲った1匹と、この日の1匹だけだった。 漁師さんの見事な包丁捌きの末にできあがったフナの刺身。糸づくりだ。これが心底、涙が出るほどおいしいものだった。何年越しかの憧れの味。こんなにも焦がれたものが、きちんとおいしい。想像を超えるおいしさに、正しく表現する術を忘れてしまう。宍道湖のフナはたしかに、噂に違わぬ日本一の味だった。