日本各地の雑煮の中には、のりと称する海藻の入ったものが沢山あると思われる。この中でも、のりそのものが主役級の役割を果たすもののひとつが、出雲を中心とした地域で食べられているのり雑煮である。 日本にはのりと名のつく食用藻類が豊富にある。出雲には、十六島海苔、うっぷるいのりという、不思議な名前ののりがあり、これがその主役である。アマノリ科の種で、実際の和名もウップルイノリなのだからびっくりだ。出雲の岬地、十六島に由来するもので、ほかにもかもじのり、いわのりといった呼び名がある。なお国内でいわのりと呼ばれている海藻には複数の種が含まれるようだ。 このウップルイノリは板海苔にしたものが出回っているから、これを買う。もちろん地元でしか流通しないもののため、島根を旅したときにこれだけは買わないといけないと思い買い求めてきた。雑煮のだしにはスルメやいりこ、アユを使う。これは地域によって異なるもので、斐伊川の流域では干しアユとなる。ちょうど手元に干しアユがやってきたので、こののり雑煮を作ってみることにした。以下はだいたい2人前。 小鍋に2カップ半の水を張り、干しアユを1尾、あるいはぜいたくに2尾、表面をさっと洗って一晩浸す。中火にかけて沸騰したら火を弱めて10分ほど煮る。アユを取り出したら薄口醤油大さじ1、塩小さじ半分程度で調味する。丸餅を別の鍋でゆでて、お椀に汁ともちを入れる。ウップルイノリは2枚を日本酒(いいものを使う)をかけてふやかし、ほぐしたものをお椀にあしらう。酒がきついのが苦手ならば、煮きって冷ましたものを使ってもいい。全くもってシンプルな料理だ。 ウップルイノリはたいへん香りがいい。そこに良質の酒の香が加わり、また控えめなアユのだしがにくらしい。絶妙な海洋のバランスによって生じるこの海苔がなければ、この一杯は成立し得ない。
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