過日、野母崎でボラのことを調べてきた。結論から言うと野母崎ではボラを食べることができなかったのだけれど(漁期が格段に短くなっているらしい)、その代わりにボラを食べたいという気持ちが強くなった。そういえば、ボラカレー以来ボラを食べていない。
私の郷里はもともとボラをよく食べる地域で、ボラの刺身を見かけることもさして珍しくはないところだ。それも寒に限ったものではなくて、限られた店舗とはいえ初夏なんかにも置いてある。伊勢湾台風で河口がごっそり締め切られるまでは、広大な汽水域にたくさんのボラがやってきていたのだ。私の家もボラがすきで、近所のひとが鳥羽あたりで釣ってくるものを毎年いただいては、塩焼きなどで食べていた。白身の塩焼きのうまさはボラで知ったといっても過言ではない。あとタイ。要するにボラの塩焼きはタイのそれに比肩しうるうまさだったのだ。これは夏だったと思う。
さて、小学校から同じだった同級生に、婆さんが作るボラ味噌ばっかり食べさせられて嫌になると話すのがいた。そのお婆さんはフナのいいものが手に入らないので、ボラを使ってボラ味噌を作っていた。ボラ味噌は少なくとも津島市、蟹江町で作られていたもので、よくは調べていないがほかでも作られていたはずだ。魚屋に頼んでボラを一本買いして、このボラ味噌を作ってみる。まずは、蟹江で作られていた方法だ。
ボラは鱗を落としたら包丁の背でよくヌメリを落とす。内臓を傷つけないように腹を割いてワタを取り出し、頭を落としてから二枚におろす。これを数センチ幅に切っておく。腹の黒い膜はできるだけこそげる。鍋に水1リットル、そこへ皮を剥いて3センチ幅に輪切りにしただいこん、小さめのものを半分と、5センチ程度に切ったごぼう1本とを加えて中火にかける。沸騰したらボラの切り身250グラム(骨付き)を加えて、中火でしばらく煮る。この間、よくアクが出るのでしっかり取る。ここまでふたをしない。
5分ばかり炊いたら弱火にして、20分ほど炊くとだいこんに火が通ってくる。そうしたら豆味噌100グラムを鍋の煮汁でよく溶いて加え、全体が馴染んだところで火を止める。一晩冷ましてからふたたび弱火で火を加え、鍋全体が暖まったらざらめ30グラムを加えて、落し蓋をかけたらごく弱火で2時間ほどかけて煮る。煮汁がカレーくらいどろっとしたくらいになったところで火を止める。これでできあがりである。砂糖をあとから加えるのは、鍋底の焦げ付きを防ぐためだと言われる。
なんだ、ただのだいこんとごぼうの入った味噌煮じゃないかと思われるかもしれないが、実際そうなのである。蟹江という町は海にほど近い潮入の地域であって、ふなみそについても必ずしも豆を入れるのではなく、大根やごぼうとともに炊くことが多かった。これはボラやコイでも同じことである。ボラの場合、フナとちがって余計な小骨がないから、炊く時間は半分以下でいい。
次の機会には豆入りのボラ味噌を紹介したい。