沖縄では一軒家を借りきって、寝食をそこで過ごした。いくら小康状態にあるとは言っても、市中から感染リスクが消え去ったわけでもないし、また我々が持ち込んでいないとは言えない。したがって、この滞在において、外食のシーンはかなり少なくなることになった。その分、朝食、夕食を自炊して楽しむことにした。
2日目の朝は夜更かしのせいもあってゆるゆると、起き出したらすでに9時半を回っていた。米を炊き、おかずにはスクを空揚げにして食べる。その1で説明が遅れたけれど、スクというのはこの時期の沖縄を代表する、まさに旬の食材だ。例年この時期になると、「スク水揚げ」のニュースが琉球新報から流れる。スク水ではなく、スクの水揚げである。
スクはアイゴ類の幼魚のことで、沖縄が梅雨明けを迎えた頃、沖合で浮遊生活を送っていたものが、新月の大潮回りを中心に大群で接岸して、イノーと呼ばれる浅い珊瑚礁の内側へと加入してくる。これを専用の袋網を用いて、潜り漁でつかまえる。こんな風にしてアイゴ類の幼魚を食べているのは全国でも沖縄だけだ。しかも、この生のスクが手に入るのはたったの2週間ほど。ここを逃すとまた来年まで待たねばならない。
スクは小さめのものと、大きめとでたいてい分けて売られている。大きめのものは空揚げにするとなんともうまいのだ。表面をさっと水洗いして、片栗粉をつけて揚げる。ここに少しだけ塩をふって、またときにシークヮーサーをひと搾りして食べる。ビールのつまみにもいいけれど、まだ岸の藻を食べていないスクの、上品な香りを楽しめる空揚げは、飯のおかずにもうってつけだ。スクにはときに混じり物があり、今回はグルクングヮー(ヒメタカサゴ)が混じっていた。これも空揚げでよし。
朝の腹ごしらえを終えてから、この日は直売所を回って魚を集めていった。沖縄の魚を見ると、鮮やかな色合いに楽しい気持ちになってくる。沖縄の魚は総じて安いと思う。高いのはマクブ(シロクラベラ)やアカジン(スジアラ)などのごく限られたものだけである。
結局この日は、ほとんど魚を買うだけで終わっていったな、なんて思う。魚に加えて、沖縄ならではの食材も色々と買い入れた。これは島バナナ。ブドウを思わせる酸味が楽しい。
この日の夜はこれでもかというくらい、魚を食べることになった。このことはまた次回。