だらだらと続けてきた沖縄のいゆじ、も今回で最後になる。今回の沖縄は、あくまであそびとして立案し、実現したものだ。これまでの沖縄への旅はすべて、研究、仕事が中心だったので、そのときにできなかったことはできるだけした。うつわ屋に好きなだけ行き、登り窯のかま焚きを見て、またあらゆる直売所で買い物をした。できなかったのはいくつかの飲み屋への訪問である。
さて、今回もっとも実現したかったのが、ターイユシンジーこと、フナの煎じ汁である。これこそ、沖縄にやってこないと完成の難しい料理ではないだろうか。このシンジ-は熱が出たとき、風邪を引いたとき、またその他の不調時に沖縄の、少なくとも中南部のひとびとが口にしてきた民間の薬である。この主役がターイユことフナであり、またニガナーなのだ。那覇には今もターイユを売る店がある。しかしこのターイユは果たして沖縄のひとびとが食べてきたフナと同じものなのだろうか?沖縄島南部のフナは過日の放流行為によって交雑が進み、在来の血を大きく損じてしまっている。私はフナの味は系統によって異なると考えているので、これでは真のターイユシンジーを食べたということにはならないと思う。そこで、沖縄島の在来の可能性がきわめて高い某所でフナを必要最小限採集し、この料理に使うことにした。
ターイユシンジーの作り方は至って簡単なものだ。まずはフナを泡盛に泳がせて、動かなくなるまで待つ。小鍋にフナの全身がかぶる程度の水を加え、そこへニガナーをふたつかみほど、長さ5センチほどに刻んで加える。フナは鱗も、内臓も一切とらない。内臓の病には内臓ごと食べることで対処しようという考えである。
これを弱中火で火にかける。強火にするとフナの体表がボロボロになってしまうから、弱くする。沸騰してきたらはじめのアクだけを取り除き、弱火に落として1時間から1時間半ほど煮る。はじめは灰色がかった透明だった煮汁がポタージュのように濁って濃厚になり、ニガナーの葉から溶け出した色素が混ざって黄色っぽくなっている。硬いニガナーの葉ももはや柔らかい。最後に塩をひとつまみ加えて調味する。
満身創痍となりつつあったこの会のメンバーにとって、ターイユシンジーはいかなるものであっただろう。ニガナーと、胆汁による苦みは強烈だけれど、フナの持ち味のうまみがとても強く、これが長くつづく。それでいて生臭い風味がかけらも感じられないのである。私はこの味を一生、忘れずに覚えておく。
この翌日が実質的な沖縄の最終日となった。海で珍しい魚たちと戯れ、一部を食べる。この身に許された自由と、今回の幸運に感謝したい。