大昔の木曽川下流域のひとびとにとっての人寄せ料理といえば、すしを除けばかしわめし、こいめし、ぼらめし、であった。それぞれがかきましとか、いばらめしとか、こいぞうすい、ぼらぞうすいという呼び名もあるけれど、要するにすべて炊き込みご飯である。炊き込みご飯は一度にたくさん作るのが簡単で、手間がかからない。立田とか、養老とかいう土地では川魚屋や漁師の家には必ずコイが活けてあったので、それをなにかあるときに買い求めては料理していた。いまの感覚では分かりづらいけれども、かつてコイは比較的珍しい魚で、大きな川や池に限られているものだった。
さて、このコイを使った炊き込みご飯がこいめしだ。かきましとも言うし、いばらめしとも呼ぶ。これは炊き込みご飯のなかに混じる小骨がいばら(棘)のようだから言う。通常は大鍋にいっぱいに作るもので、私もかつては10人分、一升で作っていたけれど、現在の我が家では三合分も作れば十分だ。
コイは大きなものの方がうまい。ただし、大きくないといけないわけではない。いずれにしても、いいコイを使うべきだ。鱗を落としてあるコイの肉250グラムを2センチ幅に切る。ゴボウ小半分を皮を洗ってからささがきにする。好みでにんじんも少しばかり細切りにする。しょうが15グラムは皮つきのまま、あとで取り除きやすいように大きめに切っておく。
鍋に濃口醤油(甘くないもの)50ccと水2カップ、酒大さじ1を加えて、煮立ったらコイとごぼう、しょうがを加える。あくが出るけど本来はとらずに、しかし気になるなら取りながら、中強火で炊いていく。汁が減り始めたところでざらめを小さじ1加える。これで15分も炊くとほとんど汁気がなくなる。だいたい汁気が三分の一くらいになるまで炊いていい。
米は洗って、水を2.5合分になるまで加えて、20分程度吸水させる。炊飯器の早炊きモードにして、10分経ったら煮ておいたコイとごぼう、しょうがを加えて、すぐにまたふたをする。この際、煮汁は少し鍋に残す。炊飯が終わる、つまり蒸らしが終わる3分前にふたを開けて中の具をかき混ぜ、そこに先の鍋に残しておいた煮汁に濃口醤油大さじ1.5杯加えたものをかけ回す。すぐにまたふたをして、5分置いたらできあがり。
好み次第でねぎをちらして食べても、山椒を振ってもいい。ときどき小骨が出てくるから、これを注意深く取り除きながら食べるのだ。しかし客人に出すことを考えたら、小骨はあらかじめとっておくべきだろう。そのためには、先のレシピでかき混ぜるタイミングでコイの身だけを取り出して、ほぐして小骨を取り除いてからまた戻す、という作業が必要になる。三合分くらいならできそうなものだけれど、大勢の料理では遠慮したい手間だ。